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「私は一週間、泣きに泣きました。私に目が三つあるわけではない。皮膚の色が違うわけではない、口が二つあるわけではない、耳が四つあるわけではない。何も変わらないのに、そして一生懸命がんばるのに、自分が手塩にかけたそういう人たちに、なぜそんなことを言われなくてはならないのだという、奈落の底に落ちた私の悲しみは一週問続きました」
 敗戦から二十八年後の一九七三年(昭和四十八年)三月七日、京都府議会の本会議場は静まりかえっていた。演壇に立った府会議員の野中が大鉄局を辞めたいきさつを切々と語っていたからだ。
 私が調べた範囲では、彼が公開の場で自らの被差別体験を詳細に語ったのは、後にも先にもこの時しかない。
「(一週間悲しみ抜いた末に)私が最後に出した結論は、私はあまりにもいい子になっていたということでした。大阪へ出て部落の出生であることを言いふらそうとも、隠そうとも思ってなかったけれども、自分の環境から逃げ出していい子になりすぎておった。やっぱりまっすぐ自分を育んでくれた土地へ帰ろうと。府議になることよりも、町長になることよりも部落差別をなくすことが私の政治生命であります。ここでこんな悲しいことを言わなくてはならないのも、これが私の最大の政治生命であるからです」
 いったい野中の身に何が起きたのか。もう一度、敗戦後の大鉄局(大阪鉄道局)に戻ってみよう。
一九五〇年(昭和二十五年)、野中は大鉄局業務部審査課の主査になっていた。野中は審査課の族客係として切符の印刷工場の検査や、駅員たちの指導などの仕事をてきぱきこなし、課内で重用された。……
 野中の運命を変える事件が起きたのはそのころである。当時の審査課には野中のあっせんで入った園部中学の後輩が前出の黒田ら二人いた。野中は彼らを自分の下宿で寝起きさせ、食事の面倒も見てやっていた。ある日、野中が局の更衣室で着替えをしていると、衣裳棚を隔てた向こう側から聞き覚えのある声がした。
「野中さんは、大阪におれば飛ぶ鳥を落とす勢いでやっているけれども、園部へ帰れば部落の人だ」……
 野中が部落民であるという話はあっという間に局内に広がった。野中の昇進ぶりをねたむ職員たちが「鬼の首でも取ったように」野中の府議会での発言に騒ぎ、上司に対して「なぜ、野中をあんな高いポストにつけるのか」という抗議が一斉に起きた。
 これまで信頼していた相手が態度を豹変させるのを見るのは辛かった。野中は夜、下宿に帰ってふとんのなかで悶え苦しんだ。悔し涙がこぼれた。
 何で自分はこんな馬鹿なことを言われなきゃならんのだ。大阪へ来て、一生懸命働いたつもりなのに……
 苦しみに苦しみぬいた末の一週間目の朝のことである。
「ここはおれのおるところではない」
 という声が聞こえてきた。そのとき野中は心を決めた。
「おれは大阪でいい子になりすぎていた。結果的に自分の環境から逃げていた。自分を、自分という人間を知ってくれているところで、もう一度生き直してみよう」
元社会党代議士で部落解放同盟の書記長をつとめた小森龍邦(現解放同盟広島県達委員長)は、戦後の解放運動を引っ張ってきた指導者の一人である。……部落解放の理念と歴史を体現する数少ない男の一人と言っていいだろう。
 その小森が野中の存在を初めて知ったのは一九八二年(昭和五十七年)三月、京都市の京都会館(旧岡崎公会堂)で全国水平社創立六〇周年記念集会が開かれたときだった。
 来賓として壇上に立った京都府副知事の野中はこう挨拶した。
「全水創立から六十年ののち、部落解放のための集会を開かなければならない今日の悲しい現実を行政の一端をあずかる一人として心からおわびします。私ごとですが、私も部落に生まれた一人です。私は部落民をダシにして利権あさりをしてみたり、あるいはそれによって政党の組織拡大の手段に使う人を憎みます。そういう運動を続けておるかぎり、部落解放は閉ざされ、差別の再生産が繰り返されていくのであります。六十年後に再びここで集会を開くことがないよう、京都府政は部落解放同盟と力を合わせて、部落解放の道を進むことを厳粛にお誓いします」
 全国から集まった約二千人の同盟員らから大きな拍手がわいた。東京・六本木の部落解放同盟中央本部で小森が当時を振り返る。
「そのときワシは同盟の中央執行委員じゃったが、野中さんの演説にみんながやんやの喝采をしてじゃな、ワシは『おお、元気ええ人がおるな。野中いうのはやるもんじゃなあ』と思った。地位を得た人がそういう(出自を明らかにする)宣言をしてくれるのは非常にみんなを元気づけるわな。そういう意味の感心をしたのを覚えとる」

野中氏は、この「部落解放の道を進むこと」との厳粛な宣言の翌年から、国政の場で活躍することになります。

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