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消えた年金

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大量の記録漏れが、国民の年金不信を増幅している。なぜこのような失態が相次ぎ、放置されてきたのか。該当者不明の年金記録〈5000万件〉の背景に迫った。
 「コンピューターへの年金記録の入力作業は、主婦など素人のアルバイトに任せていた」。東京都内の社会保険事務所に勤務していた元職員は、記録漏れを引き起こした電子化作業について、こう証言した。
 社会保険庁には、誰のものかわからない保険料納付記録が約5000万件もある。中には、氏名や生年月日などの入力ミスが大量に含まれている。「業務量が膨大なので、職員の対応には限界があった」。元職員はそう語ったが、作業を外部業者に委託したケースもあるなど、社保庁側の管理監督も不十分だった。記録漏れの原因が、アルバイト任せのずさんな作業にあったことは間違いない。
 年金記録の電子化は、1970年代から本格化。古い手書きの納付記録にある振り仮名なしの漢字の氏名を、カタカナに置き換えて入力していた。その際、本人や勤務先への確認はほとんど行われなかったという。
 「名前の読み方が何通りか考えられる場合でも、確認したのでは時間を取られる。常識的な読み方で入力し、わからない漢字は辞書を引いて調べる決まりになっていた」と、元職員は話す。この結果、「フルタニ(古谷)」が「フルヤ」、「ケイコ(佳子)」が「ヨシコ」などの誤りが多発し、せっかく払った保険料が年金額に反映しないという事態につながった。
 また、5000万件の中には、生年月日不明の記録が約30万件も含まれている。これについても、元職員は「生年月日がわからなければ、とりあえず空欄のままにしておいた」と言う。
 高齢者の暮らしを支える公的年金の業務に、ミスは許されない。なぜ、記録を丁寧に扱わなかったのか。
 問題は、国民を軽視する組織の無責任な体質にある。
 社保庁の職員組合「自治労国費評議会」は、コンピューター導入に際して、「労働強化が生じないよう十分配慮する」「1人1日のキータッチは平均5000タッチ以内……」など、仕事量が増えないように、様々な確認事項を取り交わしていた。国民の利益より、労働条件が優先。それを野放しにして組織改革を怠った幹部職員、厚生労働省の責任は重い。
 入力ミスなどが原因で誰のものかわからなくなった記録も、基礎年金番号の導入時に、氏名や生年月日、性別などを念入りに確認し、誰のものかを突き止める「名寄せ」をきちんと行っていれば、被害は少なくて済んだはずだ。にもかかわらず、社保庁の対応は、対象者に注意喚起の文書を送るなどに限られていた。
 「勤め先の会社と連絡を取るなどして確認する方法もあったが、国民年金保険料の徴収にも人員を割かなければならず、結果的に、十分な名寄せができなかった」。社保庁の元幹部は、そう弁解をするが、新藤宗幸・千葉大教授(行政学)は、「もっと繰り返し注意を呼びかけ、コンピューター内の記録を徹底的に調べるべきだった。年金は本人の請求に基づいて支払う『申請主義』なので、積極的に記録を調査して国民の受給権を保障しようという責任感があまりにも薄かった」と指摘する。
 「社保庁は私たちがみんな死んで、いなくなるのを待っていたんだろう」。記録漏れで年金額が少なくなった高齢者の憤りの声を、関係者はどう受け止めるのだろうか。
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